仲良くなった女性の告白
夫と私、小学1年生の息子。家族3人で穏やかに暮らしていたのですが、私がAと言う女性と出会ったことで状況が一変しました。
Aと初めて会ったのは、近所にできたオシャレな雑貨屋さんでした。
「今、手にしているマグカップ、素敵ですよね。私も良いなあと思って」
私より少し年下に見える女性が、いきなり話しかけてきたので正直言って、最初は戸惑いました。
(お店の人?それとも何かの勧誘?ちょっと怖いんだけど…)
愛想笑いを浮かべながら適当に相槌を打ち、逃げるように、けれどもそれを悟られないように、少し足早にその場を立ち去りました。
ところが、その翌日、今度はオシャレな雑貨屋さんのすぐ近くにあるオシャレなカフェで紅茶を飲んでいる時に、再びAが話しかけて来ました。
この辺りは、オシャレな雑貨屋やオシャレなカフェ、オシャレなベーカリーやオシャレな洋服屋さんなど、市内で『オシャレ』と感じられるものが唯一集まっているエリアです。
だから、そういう雰囲気が好きな人と何度か立て続けに会ってしまうことは、それほど珍しくありません。
「昨日もお会いしましたよね?やっぱりそうだ!あの雑貨屋さんでマグカップを見ていた時に、私、話しかけましたよね?覚えていませんか?」
Aは私の断りもなく目の前に座ると「これです!」と、雑貨屋さんの紙袋からマグカップを取り出して私に見せてきました。
私がリアクションに困っていてもAはお構いなしで、続けざまに洋服屋さんの紙袋をテーブルの上に置きました。
「これも買っちゃいました」
紙袋の中から取り出された青いセーターを見て、つい声が出てしまいました。
「あ!そのセーター」
前日、雑貨屋さんの帰りに立ち寄った洋服屋さんで見つけた青いセーターは、見た目も肌触りも私好みで、まさに紅茶を飲み終えてから買いに行こうと思っていたものでした。
「その服、一点ものでしたよね?」
私がAに言うと、Aは驚いた表情を浮かべました。
「え?このセーター、知ってるんですか?昨日の雑貨屋さんの近くにあるショップで買ったんです。あそこ、センスいいですよねー」
「実はね、私も狙っていたんです」
そう打ち明けると、Aは笑って言いました。
「私たちって好みが似ているのかもしれませんね」
卑劣な元カレの話に同情
この日をきっかけに、市内に新しくできた韓国ショップやオーガニックのスイーツ店で、たびたびAと遭遇するようになり、それに伴って会話の内容もオシャレやグルメだけではなく、身の上話に変化していきました。
「Aちゃんは私よりも若くて可愛いんだから、そんなひどい男のことなんか忘れて、早く次の恋に進まないとダメ!」
Aがよく口にしたのは、彼氏の話でした。正確に言えば、一方的に捨てられてしまったので、彼氏ではなく元カレです。
Aの話を聞けば聞くほど、私は彼女に同情し、同じ女性として許せない気持ちになりました。
その男とAが出会ったのは、今から数年前の飲み会らしく、「話が合うって言うか、ノリが合うって言うか、見た目もカッコイイし、身体の感じも好きだし、連絡先を交換して週に何度もご飯を食べに行きました」と言っていました。
食後は必ずラブホへ行って、行為が終わると、男は「Aと俺の間に子供が生まれたら幸せな家庭が築けそうだな」とか「Aには白とかピンクより黒とか紫のドレスが似合いそうだな」とか、結婚を匂わせるようなことを言っていたそうです。
いつしかAは彼との結婚を夢見るようになり、それは同じ女性として気持ちは十分に理解できました。
Aが彼の嘘を知ったのは、一昨年のクリスマス(付き合ってから11ヶ月で初めて迎えるクリスマス)だったそうです。
普段は彼の方から、しつこいくらい電話があるのに、初めて2人で迎えるクリスマスを前に連絡が途絶え、Aの方から彼の携帯に電話をすると、電話の向こうから男の子の声が聞こえて来たと言います。
「もしもし、もしもし。パパ~、パパの電話に出ちゃったー」
動揺したAが電話を切っても、彼から折り返しの連絡はなく、翌日になってからAが再び電話をすると、彼は怒った口調で言ったそうです。
「電話は俺から掛けるって言ったよな?あれは俺の子供だよ。は?付き合っている?誰が?俺たちが?そんなこと俺が今まで一度でも言ったか?独身だって言ったこともないだろ?俺とお前は、ただのセフレ。呼べばヤラせてくれる女ってだけ。勝手に勘違いして、しつこく付きまとうなんてストーカーかよ!」
Aのために恋愛アドバイス
その時のショックは今でも癒えていない…。
Aは元カレの話をする度に、そう言って泣いていました。
「Aちゃん、世の中には、そんな最低な男ばかりじゃないわ」
私はAを励ます役目でしたが、決してイヤではありませんでした。可愛い後輩みたいな存在で、彼女にまた前を向いてもらいたい!と思っていました。
「じゃあ、ご主人のいいところを10個挙げて下さい」
Aは、ただ泣くだけではなく、このような質問をしてきました。
「10個もないかな」
そう言いながらも、夫の良いところ、夫婦でいられることの喜び、家族の素晴らしさ、そんなポジティブな側面を可能な限り伝えると、Aは途中で泣き出しました。
「いいなあ、私も幸せになりたい!」
その後も頻繁に連絡を取り合って、何度も一緒に食事をしました。
私の友人2人をAに紹介し、Aも私に友人2人を紹介してくれ、女6人で温泉旅行へ出掛けたこともあります。温泉でもAは号泣しながら元カレの話を始めて、私やAの友人だけではなく、私の友人2人も男の態度に怒って夜中まで元カレの悪口で盛り上がったりしました。
そして、あの夜が訪れましたー。
私たちの平穏だった暮らしが崩れた夜です。
元カレの正体に唖然
温泉へ行った女6人でホームパーティーをすることが決まり、初めて我が家へAを招待しました。
ホームパーティーの準備は、私の友人2人と夫が手伝ってくれ、あとはAとAの友人2人を待つだけとなりました。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
チャイムを連打する音が聞こえたので、息子と一緒に玄関の扉を開けると、そこには私が好きなスイーツ店の紙袋を持ったAが、にこやかに立っていました。2人の友人も一緒です。
温泉旅行へ行った女6人と、私の夫と息子。合計8人でホームパーティーを始める直前、Aがいきなり夫の隣へ行き、そこにいる全員に聞こえる声で言いました。
「お久しぶりです。私を捨てたセフレのK(夫の名前)さん!」
Aの言葉に耳を疑い、夫の顔を見ると、夫は目を泳がせるだけで何も言いませんでした。
「まさか、Kさんの家で会うとは思いませんでした。皆さん、私を騙して捨てた男は、こいつです」
夫がAを制止しようとした時、Aはスイーツ店の紙袋から何枚もの写真を取り出して、まるでドラマや映画のように、辺り一面に撒き散らしました。
そこに写っていたのは、間違いなく夫とAでした。食事中の2人、ホテルでの2人、ベッドの中での2人…。長く関係があったことを証明するかのように、写真の中の2人は、髪の長さやシャツの袖の長さが違い、Aが話していたとおり、約1年の歳月が流れていたことを確信しました。
私の友人が、息子の手を引いて、別の部屋へと連れて行くと、Aは私に言いました。
「私たちって好みが似ていますよね。男は先に取られたから、他のものは全て私が先に買いました。マグカップもセーターもコスメもスイーツも。欲しがっていたものは先に手にして、すぐに捨てました」
Aは全てを知ったうえで、私に近付いたのでしょう。
私の行動を監視して、私の好みを把握して、私だけではなく、私の友人たちからも信頼を得て、元カレの卑劣さをたっぷり刷り込んで…。
そして、みんなと夫が揃う機会を見計らって復讐を実行したのだと思います。
夫を見ると、顔を真っ青にして俯いていました。
Aを見ると、Aは私に冷たい声で言いました。
「その男も要りません。人の心を平気で踏みにじる最低な男です。それなのに旦那さんの良いところ?夫婦の素晴らしさ?いつも笑いを堪えるのに大変でした。私も騙されていたけれど、あなたも騙されていたんですよ。同じ被害者なのに偉そうに」
目的を果たしたAが家から出て行くと、Aの友人たちや私の友人たちも気まずそうに出て行きました。
うなだれる夫の後ろ姿に奥の部屋から出て来た息子が「パパー」と無邪気に声を掛けて、その声だけが虚しく響き続けた夜でした。